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道場修行録 > 指標発表時のスプレッドとスリッページ
低レバの掟

平常時のスプレッドで計算するな。広がった時間は毎週公表されている|2026年9月版

平常時のスプレッドで損益を計算し、それを自分の実力だと思っているうちは、まだ甘い。相場が動く瞬間、その数字は約束されていない。しかも、どれだけ約束が破られたかは公表されている。

公開 2026年9月3日最終更新 2026年9月3日執筆 剛読了 約12分

ふだん0コンマ数銭で取引しているから、損切り幅も手数料の見積もりもその前提で組む。そして雇用統計や政策決定会合の直後、注文が想定と違う値段で通り、なぜこうなったのかを後から探すことになる。

結論を先に置く。広告されているスプレッドは原則値であって、相場が動く瞬間には維持されない。そして重要なのはここからだ。どれだけ維持できなかったかを、会社は毎週自社サイトで公表する義務を負っている。想像で語る必要はない。数字を見に行けばいい。この記事では、その公表義務の中身と、スリッページに関して規則が禁じている行為までを叩き込む。

⚠️ はじめに。FXは元本割れのリスクを伴う取引であり、相場急変時には預けた証拠金を超える損失が生じることもある。本記事は2026年9月時点で公表されている自主規制規則と中央銀行の会合日程に基づく一般的な解説であり、特定の取引・時間帯・会社を勧めるものではない。スプレッドの提示方法、スリッページの許容設定、価格配信を停止する基準は会社ごとに異なるため、実際の扱いは取引先の取引説明書で必ず確認せよ。

広告値は原則である。規則がそう作られている

金融先物取引業協会は、店頭FXのスプレッド広告について専用の細則を持っている。2020年6月17日に制定され、同年12月1日から施行、2022年9月26日に一部改正された「広告等の表示及び景品類の提供に関する自主規制規則第9条に関する細則(スプレッド広告関係)」だ。その第4条は、広告審査担当者が確認すべき事項を列挙している。

スプレッドが広告と異なり顧客にとって不利となることがある場合には、当該場合があること及びその具体的な状況を明確に表示していること同細則 第4条第3号

「異なることがある」という前提で規則が組まれている。同じ条は、投資者に有利な数値のみを強調していないことも、広告掲載日を表示していることも確認事項に挙げている。

「おとり行為」の定義(同細則 第2条第5項)。広告を行いながら合理的な理由なく広告どおりのスプレッドを顧客に提示せずに、又は形式上は広告内容に添った取引を装いながら、実際には顧客に不利となる取引を行うこと。
第3条第1項はこれを禁止し、第3条第3項は、その未然防止のための管理・監督を注文執行過程に直接関与する部署及び担当者から独立した部署及び担当者が行うと定めている。

どれだけ広がったかは、毎週公表されている

ここが本題だ。同細則第6条第1項は、スプレッド広告を出す会員に、毎営業日つけるべき記録を三つ指定している。

記録する項目中身
第1号取引時間のうち、提示したスプレッドが広告内容と合致し、又は広告内容を下回った時間
第2号取引時間のうち、価格の提示を停止した、又は約定を停止した時間
第3号取引時間のうち、実際に提示したスプレッドの中で最大であった値

そのうえで第6条第2項が、集計結果の公表を義務づけている。

会員は、前項の記録を基に、営業日毎の前項各号の時間を集計し、毎週金曜日までに、次の各号に掲げる事項を自社のホームページで公表するものとする。同細則 第6条第2項

公表の対象は直近4週ぶんだ。広告どおりだった時間の割合と、価格提示や約定を止めていた時間の累計。そして、その4週で最大だったスプレッドの値。広がることがある、という但し書きではない。割合と最大値という数字で出ている。しかも第6条第3項は、割合から判断して広告と異なると認められる場合には要因の掲載まで求めている。

会社を選ぶ前に、この3つを見よ。広告値と、広告どおりだった時間の割合、そして4週間の最大スプレッド。広告値だけを見比べる者は、規則が用意した情報の3分の1しか使っていない。記録は作成から3年間の保存が義務づけられており、おとり行為の管理・監督は注文執行過程から独立した部署が行うと定められている。スプレッドの基礎そのものはスプレッドとは何かで叩き込んである。

スリッページの定義と、規則が禁じる三つの偏り

スリッページとは何か。東京金融取引所の定義を引く。

為替相場の瞬時の変動により、注文時に表示されていた価格又は注文時に指定した価格と異なる価格で取引が成立する事象をスリッページと呼びます。東京金融取引所「特徴とメリット」

ズレること自体は避けられない。問題は、ズレ方が公平かどうかだ。金融先物取引業協会の金融先物取引業務取扱規則第25条の2の2第3項は、店頭FXで次の三つを禁止行為としている。

禁止されている扱い何が起きるか
不利なスリッページは約定させ、有利なスリッページは無い価格に置き換える滑るのは損な方向だけになる
約定に使うスリッページの許容範囲を、有利な方向より不利な方向へ広く定める不利な側だけ深く滑る
スリッページ価格で約定させる数量を、有利な場合より不利な場合に大きく設定する不利な側だけ多く約定する

この条文は平成25年8月9日に新設され、同日施行された。既存の会員には平成25年11月30日までの猶予が置かれている。損な方向にばかり滑るという体感が業界に存在したからこそ、こういう条文が後から足されたと読める。

さらに同規則第25条の2の3第3項は、取引説明書等への記載を注文種類別に求めている。書かせるのは、スリッページが発生することがある旨・その発生原因となる仕組みの概要・顧客の有利不利の状況の三つだ。注文の種類ごとに書き分けさせている点が肝だ。自分の使う注文種別について何が書かれているかを読め。注文種別そのものは損切りを自動化する注文の型で扱っている。

価格の提示そのものが止まることもある

スプレッドが広がるより厄介な状態がある。気配が出なくなることだ。東京金融取引所は自らの商品についてすら、注記でこう書いている。

相場の急激な変動時等には、インターバンクマーケット等での取引数量が少なくなることから、スプレッド幅が広くなったり、買気配または売気配が提示されずに投資家の皆様が取引を行えない等の不測の事態が発生する可能性があります。東京金融取引所「特徴とメリット」注3

店頭FXでは、価格配信の停止と再開の判断基準を会社があらかじめ定めることになっている(同規則第25条の2第2項)。さらに同規則第25条の2の3第1項第2号が踏み込んでいる。配信を停止して再開したとき、再開時点の価格によってはロスカット取引が発生しうることを、あらかじめ顧客に提供せよという内容だ。それによる損失が証拠金を上回るおそれがある場合は、その旨まで書かせている。止まって、開いて、いきなり切られる。この順序が規則の中に書き込まれている。

いつ来るかは、先に公表されている

相場が動く瞬間のすべてが不意打ちではない。中央銀行の会合日程は、年単位で公示されている。

2026年日本銀行 金融政策決定会合米連邦公開市場委員会
1月22日・23日27日・28日
3月18日・19日17日・18日
4月27日・28日28日・29日
6月15日・16日16日・17日
7月30日・31日28日・29日
9月17日・18日15日・16日
10月29日・30日27日・28日
12月17日・18日8日・9日

並べて数えると、両者の会合日が同じ日にかかるのは3月18日、4月28日、6月16日の3日。年8回のうち3回だ(出典は日本銀行 金融政策決定会合の開催日程FOMC Calendars。重なる日の抽出は当方で数えた)。

ただし日程が分かることと、時刻が分かることは別だ。日本銀行は各公表資料の時間について、主な意見と議事要旨は8時50分、展望レポートの全文は翌営業日の14時と明示している。一方で基本的見解は「会合終了後直ちに」としており、時刻は決まっていない。日付は読めるが、分秒は読めない。板が薄くなる時間帯を待ち構えるのではなく、その日は建玉を軽くしておけ。

平常時の数字で損切り幅を決めるな

数字で確かめる。1万通貨の対円通貨ペアなら、1銭の値動きは100円にあたる。1回のリスクは口座資金の2%までという掟に従い、口座50万円で許容損失1万円、損切り幅20銭という設計を置く。

許容損失 = 500,000円 × 2% = 10,000円
損切り幅0.20円 × 5万通貨 = 10,000円(設計どおり)

約定が5銭滑った場合
実際の損失幅 = 0.25円 × 5万通貨 = 12,500円
許容損失に対して 125%

たった5銭で、守っていたはずの2%が2.5%になる。損切り幅が狭いほど、スリッページの影響は比率として大きく効く。20銭の損切りに対する5銭は25%の上振れだが、100銭の損切りに対する5銭なら5%で済む。指標の日に建玉を持つなら、量を減らすか、幅を広げるか、どちらかを選べ。ロットの決め方は通貨単位と1目盛りの金額で扱った。

剣が届く距離を、風のない日に測るな。測るべきは、風が吹いた日に何寸ずれるかである。

道場の心得:数字は公表されている。読みに行け

三つに凝縮して叩き込む。

  1. 取引先のスプレッド実績ページを開け。広告どおりだった時間の割合、配信を止めた時間、直近4週の最大スプレッド。毎週金曜日までの公表が義務づけられている。
  2. 取引説明書のスリッページの項を、注文種別ごとに読め。規則は注文種類別の記載を求めている。有利不利の状況まで書いてあるはずだ。
  3. 会合の日は建玉を軽くせよ。2026年に日銀とFOMCの会合日が重なるのは3月18日・4月28日・6月16日。日付は読めても、発表の分秒は読めない。

よくある問い

FX会社が広告しているスプレッドは、いつでもその値なのか。

違う。金融先物取引業協会の細則は、広告審査担当者に対し「スプレッドが広告と異なり顧客にとって不利となることがある場合には、当該場合があること及びその具体的な状況を明確に表示していること」を確認させている。広告値は原則であって保証ではない。

実際にどれだけ広がったかを知る方法はあるか。

ある。同細則第6条は、スプレッド広告を出す会員に対し、毎週金曜日までに直近4週分を自社ホームページで公表するよう定めている。公表されるのは、広告どおりのスプレッドを提示していた時間の割合、価格提示や約定を停止していた時間の累計、その期間に実際に提示した最大のスプレッドの三つである。

スリッページは常に不利な方向に出るのか。

規則はそれを禁じている。金融先物取引業務取扱規則第25条の2の2第3項は、顧客に不利なスリッページのときだけその価格で約定させ、有利なときはスリッページの無い価格に置き換えるという扱いを禁止行為として挙げている。許容範囲や数量を不利な側にだけ広く設定することも同様に禁じられている。

スプレッドが開く日は事前に分かるのか。

会合の日程は事前に公表されている。日本銀行の金融政策決定会合は2026年に8回、米連邦公開市場委員会も8回の日程が公示済みで、両者の会合日が同じ日にかかるのは3月18日・4月28日・6月16日の3日である。ただし日本銀行は展望レポートの基本的見解の公表時間を「会合終了後直ちに」としており、時刻までは決まっていない。

まずは取引先のサイトで、スプレッド実績の公表ページを探せ。直近4週の最大スプレッドが何銭だったかを書き出す。その数字を損切り幅に足して、自分の許容損失を超えないかを確かめよ。今日の稽古は、そこから始めよ。

虎の穴 道場主・執筆

甘えを排し、基本を徹底する。制度・数値は公的機関と取引所の一次資料で裏を取る。誤りの指摘はお問い合わせから。

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